細胞壁合成チェックポイントのシグナル伝達機構の解明(根岸)

 細胞周期のチェックポイント制御は、DNAが損傷を受けた際に修復を終えるまで細胞分裂を停止させる現象を説明するために、1989年にHartwellが出芽酵母をもちいた研究により提唱した概念です。この細胞周期チェックポイントの概念は、ヒトを含めた多くの生物に保存されており、その後の研究から、チェックポイント機構の欠損は細胞の癌化を引き起こすことなどが解明され、そのチェックポイント機構は、われわれの健康とも密接に関わる生命現象です。細胞周期チェックポイントは、DNAの損傷だけでなく、細胞周期の進行と協調しておこる多くの事象において誘導される機構です。本研究では、出芽酵母の細胞壁構築と細胞周期合成の協調した制御機構について解析しています。

 出芽酵母の細胞が出芽をへて分裂する際には、その出芽部位(後の娘細胞)に細胞壁を合成し供給する必要があります。そのため、細胞壁の主要構成成分である1,3-β-glucanを合成するFks1pの変異体、fks1-1154株では、細胞壁合成が適時におこなわれず細胞周期の停滞が観察されます(図1)。この細胞周期の停滞は、細胞周期のM期(有糸分裂から細胞質分裂)進行以前におこり、それはM期特異的に転写されるBタイプサイクリン、CLB2の転写抑制によって誘発されることがわかっています(Suzuki et al. 2004)。さらに、近年ではいくつかのMAPキナーゼがこの機構を制御するシグナル伝達機構に関与することが示されています。しかしながら、細胞壁合成という細胞表層での異常がどのような機構をもつシグナル伝達経路をたどり、サイクリンの転写抑制や、細胞周期進行の制御を行っているか、その全容はいまだ未解明です(図2)。本研究の目的は、そのシグナル伝達の全容解明を目指すものです。具体的には、MAPキナーゼとサイクリン転写制御の関係性の解明や、核輸送因子に着目した細胞壁合成チェックポイントに関与する遺伝子の機能解析を行っています。

図1. 細胞壁合成に欠損をしめすfks1-1154株では
小さい芽を持った細胞が観察される

図2. 細胞壁合成チェックポイントの概要

S期初期に小さい芽を持つ細胞が観察されるが、細胞壁合成が欠損している場合は、芽はそれ以上大きく成長できず細胞周期がM期以前において停滞する。その際に機能するシグナル伝達機構の詳細は解明されていない。

出芽酵母における細胞壁合成酵素の機能解析(岡田)

 真菌類の細胞壁は、細胞膜外に存在する構造体であり、浸透圧変化などの外的環境や、細胞周期の進行などの内的環境に応じて構成成分を変化させる動的な性質をもちます。細胞壁は主に数種類の糖鎖から成り立っていますが、そのうち大きな比重を占めるものは、1,3-β-グルカンと1,6-β-グルカンからなるグルカン層であり、細胞壁の物性に大きく貢献しています。我々は、グルカン層の1,3-β-グルカンの合成酵素であるFks1pの生体内での働きに着目して研究を行ってきました。これまでに、Fks1pの分子機能を予測するために、画像解析による細胞形態や、酵素活性などの量的表現型に基づいて変異株を分類することで、タンパク質を分子解剖する遺伝学的方法を提案しました。その方法を10種類のfks1変異株に対し適用したところ、Fks1pのいくつかの機能ドメインが明らかになったと同時に、Fks1pが細胞壁合成だけでなく、細胞極性制御などの形態形成に関して重要な役割をもつこともわかってきました。これを受けて、Fks1pとの合成致死性を指標にした網羅的な関連解析を行うことで、変異アリル特異的な分子機能ネットワークを構築することによりFks1pの働きに関してさらに理解を深めたいと考えています。また、量的表現型に基づくタンパク質の分子解剖法を1,6-β-グルカンの合成に関わるとされるタンパク質にも適応することで、出芽酵母のグルカン層の生合成に関する研究も進めていきます。

図1. Fks1p機能ドメインのモデル図

Hcm1pの核輸送と細胞壁合成チェックポイントにおける役割りに関する研究(鴨志田)

 細胞壁合成チェックポイント誘発時には、核内での応答機構としてCLB2の転写抑制が知られています。本研究室での先行研究から、細胞壁合成チェックポイントが働く際には、S期初期に働く転写因子Hcm1pの核への局在が抑制されること、さらに、その核移行はリン酸化によって制御される可能性があることが示唆されました。そこで、本研究ではHcm1pと出芽酵母で知られている15の核輸送因子との結合の可能性をさぐるためにY2H-β-gal assayを行い、Hcm1pの局在制御の知見を得ることを目的としています。さらには、Hcm1pのリン酸化サイトの同定や、核輸送因子との結合部位の決定を目指しています。

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