研究概要

1. 細胞形態の自動認識プログラムを用いた出芽酵母遺伝子破壊株の網羅的解析

 細胞はそれぞれ種特有の形態を示しますが、その多様な細胞形態は厳密な制御メカニズムによって維持されていることが明らかになってきています。真核モデル生物である出芽酵母においても、もともと楕円体に近い細胞形態が異常になる様々な遺伝子変異株が単離されたことにより、形態制御に関わる多くの遺伝子が明らかにされてきました。しかし、これらの遺伝子が互いにどのように連携して、均整のとれた楕円体の細胞を形成させるのか、そのメカニズムの全貌は未だ明らかではありません。従って、さらに多くの遺伝子変異株の形態的特徴を、客観的かつ定量的な情報で表し、比較分類することによって、形態制御に関わる新たな因子を同定することが重要であると考えられます。そこで我々は、出芽酵母の細胞形態及び細胞内構造を細胞の写真から自動認識するイメージプロセシングプログラムを東京大学新領域創成科学研究科の森下研究室と共同で開発しました(図1-12)。

 このイメージプロセシングの過程において必要な作業は、細胞の外郭、核、及びアクチン細胞骨格をそれぞれ蛍光試薬を用いて三重染色し、各々の染色画像を撮影するだけです。この画像をプログラムで処理し、デジタル化することにより、細胞の大きさ、細長さ、芽の位置など、あらかじめ設定したパラメーターに基づく個々の細胞形態に関する情報を記述することができます。また、アクチン細胞骨格の細胞内局在に関する情報や核の位置に関する情報を抽出し、細胞外郭の情報と組み合わせて分類することにより、細胞極性や細胞周期の進行についての情報も得ることが可能です。

 これまで形態制御の研究を行う上で、細胞形態の観察には多大な時間と労力を要していましたが、イメージプロセシングの導入によって迅速かつ定量的に結果を評価することが可能となりました。現在、我々は、出芽酵母の約5000の非必須遺伝子単独破壊株についてイメージプロセシング解析を行い、得られた情報を随時データベースで公開するとともに、その定量的情報に基づいた形態制御や細胞周期に関する研究を行おうとしています。

 
図1 イメージプロセシングの概要過程(左から図1-12

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2. 出芽酵母の細胞壁合成機構と細胞壁合成チェックポイントに関する研究

 ヒトを含めた全ての生き物は、常にさまざまな環境変化に適応し生命現象を遂行します。それは、生物にとって、外部環境は常に変化し制御不可能なものであるためです。この変化への適応機構は、生物を定義する「恒常性の維持」として重要な概念であり、この恒常性を維持する機構の破綻は、しばしば生命現象に壊滅的な影響をもたらします。そのため、生物はさまざまな環境変化に応答する機構を持ちます。そこで、本研究室では、研究室の名前のとおり、「生命」が持つ「応答システム」について、出芽酵母をモデル生物として研究し、生命現象の理解を深める新たな知見を得ることを目指しています。

 出芽酵母をはじめ、すべての真菌は細胞壁という構造体を持ちます(図1)。細胞壁は細胞のもっとも外側を覆い、細胞に形を与えると共に、細胞外のさまざまな環境変化から細胞を防御する重要な働きをしています。しかしながら、この安定した防御機構を保持する細胞壁は、出芽酵母が増殖する際には連続的に再構築されなければなりません。それは、増殖にともなって新しく生み出される細胞に細胞壁を供給する必要があるためです。つまり細胞壁は、「再構築というダイナミックな変化」と「恒常性維持に働く防御機構」のバランスを保ちながら機能しています。そこで、本研究室では細胞壁の再構築にかかわる遺伝子の機能解析や、防御機構のひとつとして細胞壁の変化を認識し増殖を制御する細胞壁合成チェックポイントの機構解明などを行っています。これらの目的を達成するために遺伝学、生化学、分子生物学的手法をはじめ、出芽酵母の特性を利用したゲノムワイドな解析手法や異なる専門分野で開発された手法も積極的に取り入れて研究をしています。


図1出芽酵母の電子顕微鏡写真
透過型電子顕微鏡による出芽酵母の写真(左)と細胞壁の拡大写真(右)
細胞壁は赤い矢印で示された部分で、細胞の外側を覆うように構築されている
青線と黄線はそれぞれグルカン層とマンナン層を示す

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3. 出芽酵母をモデル系とした創薬ツールの開発

 当研究室では、出芽酵母をモデル系とした創薬ツールの開発を試みています。出芽酵母は単細胞生物ですが、ヒトと同じ真核生物であり、核やミトコンドリア、小胞体といった細胞内構造とその機能は驚くほど類似しています。また外界からの刺激に対する応答機構の多くについても、ヒトと出芽酵母との間で高い共通性があります。従って出芽酵母で得られる知見は医薬品開発に容易に応用することができます。加えて、出芽酵母は増殖が早く、遺伝子ノックアウトや強制発現、蛍光タンパク質によるタンパク質の可視化などの遺伝子操作も容易です。また酵母ゲノムはヒトゲノムの5年も前に解読されており、ゲノムワイドな遺伝子機能解析も最も進んでいます。このような出芽酵母のモデル生物としての特長を活かして医薬品開発の加速に貢献したいと考えています。具体的には、(1)出芽酵母の形態変化に着目した化合物スクリーニング法、(2)出芽酵母をツールとした化合物標的の同定法、について研究・開発をしています。

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4. オートファジー研究を通じたオルガネラ(細胞内小器官)の誕生と崩壊のメカニズム

 真核細胞の生命活動は合成と分解の絶妙なバランスの上に成り立っている。遺伝情報を担う本体としてのDNAの発見以来、転写・翻訳を介したタンパク質合成システムの研究が広く行われてきた。しかし、合成するだけではタンパク質が細胞内にあふれ、細胞自身に悪影響を及ぼすことは容易に想像できる。そうした中、近年タンパク質分解システムの研究が注目を集めるようになってきた。短寿命のタンパク質を選択的に分解するユビキチン-プロテアソームシステムと並び、長寿命のタンパク質分解に大きく寄与しているのがオートファジー(自食作用)と呼ばれるシステムである。オートファジーとは、液胞/リソソームを介して細胞質成分を大規模に分解する真核生物に広く保存されているシステムである。

 細胞が栄養飢餓を感知すると、隔離膜と呼ばれる小さな袋状の膜が細胞質に出現する。隔離膜は湾曲しつつ伸展し、やがて伸展した隔離膜の末端が閉じることによって、被分解物を内包したオートファゴソームが完成する。オートファゴソームは細胞内分解コンパートメントである液胞と融合し、液胞内部に内膜からなるオートファジックボディを放出する(図1)。オートファジックボディは液胞内加水分解酵素により内容物ごと分解される(図2)。

図1.オートファジックボディの蓄積

出芽酵母ではオートファジーの進行を光学顕微鏡を用いて確認できる。右の細胞の中に多数動き回っている粒子がオートファジックボディである。

 当研究室では出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを真核細胞のモデルシステムとして用いてオートファジーの研究を進めている。オートファジーという現象が興味深いのは、オートファゴソーム形成の過程が極めて特徴的かつダイナミックな膜現象を伴って進行する点にある。また、オートファジーにより何が分解されるかという問題もオートファジーの生理的意義を考える上で重要な問いである。これらの問題に関して光学顕微鏡や電子顕微鏡などの形態学的手法を用いて研究を進めている。


図2.オートファジーの模式図

オートファゴソーム形成が誘導されると、隔離膜と呼ばれるカップ型の膜構造が細胞質中に出現する。隔離膜は被分解物を取り囲むように湾曲しつつ伸展し、やがて被分解物を内包した二重膜オルガネラであるオートファゴソームとなる。オートファゴソームは細胞内分解コンパートメントである液胞/リソソームと融合した後、内膜からなるオートファジックボディとなり速やかに分解される。

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